インクルージョン

企業戦略としてのD&I推進とインターセクショナリティ

2022年9月13日

ー「相手に『この場は安全で、私は歓迎され、尊重されている、価値を認められている』と感じてもらえるように接してください。それだけでインクルージョンへと進んでいきます」ーアリーシャ・フェルナンド(ブルームバーグアジア太平洋地域D&I統括)

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、各社にとってインクルーシブな企業文化の醸成にとどまらず、激動の時代を生き抜く強さを持つ企業であるためにも事業成長の面からも決して「人事まかせ」では済ませられない、必達の課題となってきました。

ブルームバーグでは8月23日、 「インターセクショナリティ」にスポットをあて、D&I推進とビジネスアカウンタビリティーを考えるパネルディスカッションを開催しました。パネリストは、数々の国内D&I関連団体の立ち上げに携わり、日本のD&Iの第一人者として知られるEY Japanの梅田 惠さん、長年、企業リーダーとしてD&Iをけん引してきた日興アセットマネジメントの赤尾 幸俊さん、ブルームバーグアジア太平洋地域D&I統括アリーシャ・フェルナンドです。モデレーターは、ブルームバーグのD&I採用担当の高橋 弦也がつとめました。

ダイバーシティは重要な企業戦略
D&Iを推進することは、企業のガバナンスやビジネス・アカウンタビリティーにおいてもますます重視されるようになってきています。赤尾さんは、管理職としてダイバーシティに関わり始めた当初、「マネジャーとして限られた人材の予算・数のなかで成果をあげるには、『いろいろなポテンシャルを持った人たちが幅広く、いつでも自分の部下にいる状態』を作らなければならない」という強い思いがあり、そのためにもダイバーシティが重要だったと振り返ります。

梅田さんは、「個人が強くなることで、その集合体としての企業が強くなる。そこにイノベーションが生まれる」といいます。前職時代からダイバーシティを推進するプロジェクトに広報、D&I担当として長年関わってきた経験から、「同質性の強い組織は、内部で競争になりやすく、外部の変化に弱い」と指摘します。激しく変化する今の時代にグローバルな競争を生き抜くためには、多様性を持つことで醸成される「しなやかな強さ、打ちのめされても立ち上がってくる強さ」が必要です。

さらに多様な価値観に触れる意義は、自分の中の「無意識の偏見」に気づいたり、新たな視界を開かせてくれることにもあります。梅田さんは例として、あるトランスジェンダー女性の体験談を紹介しました。元々は男性の課長職として活躍されていたその方は、「女性として働いてみると、職場で意見を聞かれなくなった。また、歩くときにこれまで道を譲られていたことに気がついた」と話してくれたそうです。その発見は、「男性に道を譲るということが、キャリア上でも職場でも起こっているのではないか?」と、より深く考えるきっかけになったといいます。

また、グローバル企業として各国のインクルージョンレベルを社内でスコア化したところ、「日本と韓国は毎回低い」という結果も共有いただきました。梅田さんは「無意識に同質性・同調性を求める伝統的な文化が、インクルージョンを難しく感じさせてしまうのかもしれない」とその背景を分析しています。

インターセクショナリティの視点からインクルージョンを考える
アジア太平洋地域でD&Iを統括するアリーシャさんは、D&Iの議論で近年話題となっているインターセクショナリティにも目を向ける必要性があると指摘します。インターセクショナリティとは、交差性と訳され、複数のアイデンティティーが組み合わさることを意味するとともに、それによって特有の 不平等、差別、抑圧または特権が生じることへの気づきを促すものです。

私たちは、意識する、しないに関わらず、性の自認や人種、障がい、年齢、家庭状況、学歴や生育環境など一人ひとりが複数の属性を持っています。集団の中では、その属性は「マジョリティー」となる場合もあれば、「マイノリティー」となる場合もあります。

一方で、 「私は男性で障がいがある」「私は女性で障がいがあってLGBTQ+のメンバーであり、シングルマザー」というように、より複合的な「マイノリティー」としての課題を抱える人々がいます。

アリーシャさんは、組織として、同僚として、仲間として、この課題についてどう対処するか考えるべき時期が来ているといいます。「そこで大きな役割を担うのがインクルージョン(包摂、受容)です」

また、「マイノリティが直面している差別の問題は、逆の立場から考えると、マジョリティは『差別をされない特権』を持っているということ。悪意はなくても、そこに差別があることを知っていながら、何もしない傍観者でいることは差別に加担していることになる。マジョリティが特権を使って差別解消に働きかけることで社会はより良い方向へ大きく変わる」とする上智大学の出口真紀子教授の「立場の心理学」についても議論されました。梅田さんは社内で関連の管理職向け研修を実施ししたところ、「これまでマジョリティー側だった人々が、自分ごととしてD&Iを捉え始めた」と、この理論に手応えを感じ始めています。

どうしたらもっとインクルーシブな環境が作れるのか?それに対するアリーシャさんの答えはシンプルです。「あなたが接するすべての人に「welcomed, safe, valued and respected ー『歓迎されている』『安全だ』『価値を認められている』『尊重されている』と感じてもらえるように接してください。それがインクルージョンです」

D&I推進におけるリーダーシップとは
企業のD&I推進において、大きな役割を果たすのが企業のトップや役職者です。赤尾さんは、当初はLGBTQ+をよく知らないところからスタートし、長年企業のリーダーとしてインクルージョンと向き合ってきました。アライ(LGBTQ+を理解・支援する人)になり、一人ひとりの当事者と接しながら理解を深めていく過程において、LGBTQ+の人々が身近に多数存在しており、自身がそれを全く見えていなかったことに愕然としたといいます。

そこから少しずつ活動の場を広げ、今では業界のネットワークでもあるLGBTファイナンスでも精力的に活動されており、今後も「Colleague(同僚)からClients(顧客)へ」と草の根的にネットワークを広げていきたい考えです。

赤尾さんは、D&I推進におけるリーダーの役割について、「究極的には個々人の領域の問題であり、目の前の人がどういう人なのか、誠意をもって向き合い、一対一の対話を通して、各人をフォローしていくことに尽きるのではないか」といいます。

「私たちは、知らぬ間に箱にいれ、グループ分けしてカテゴライズして安心しているのではないだろうか」と赤尾さんは組織としてのD&Iの施策が陥りがちなトラップに警鐘を鳴らします。

「心理的安全性において、リーダーの果たせる役割は大きい」というのは梅田さんです。若い当事者たちの中には自身のマイノリティーの部分を「あえて晒ししたくはない」ため、自分は困ってないからという理由でやり過ごしてしまう方たちもいるとして、「誰にでも強い部分と弱い部分がある。リーダーが自らが弱さをオープンにすることは、大変勇気がいることだが、チームの中に心理的安全が醸成される」

一人ひとりが自分ごととして関わることから
職場あるいは社会の一員として、私たち一人ひとりが多様性そのものであり、唯一無二の異なる存在であること、そして各自がダイバーシティ&インクルージョンを自分のこととしてとらえ、当事者意識を持って向き合うべき時期にきていることを、三者三様の視点から伝えていただきました。

「結局人は一人ひとりみな違うのです」とアリーシャさんはいいます。「障がい者であってもLGBTQ+であっても私たちの経験というものはひとつひとつが唯一なのです。言葉や枠組みの中で見るのではなく、素直な心で、彼らがいる場所で、彼ら自身へ関心を持って向き合ってください」

イベント参加者の皆さんからは、「リーダーとしてD&Iにどう向き合うべきか学ばせてもらった」「相手に先入観を持たず、誠実に話を聞く姿勢を大切にしたいと考えた」「人はカテゴリ付けする傾向にあるというお話にはっとした。人は皆違い、分類が常に必要ではない、と頭に置いて生活したい」「普段D&Iの活動を特別していなくても、接するすべての人に対して、「welcomed, safe, valued and respected の姿勢で対峙することからD&I活動が始められると気づいた」といった感想が寄せられました。

ブルームバーグでは、各部門で社内D&I推進のリーダーとなる「D&Iチャンピオン」を毎年選出。人事部門だけでなく、それぞれの現場で活躍する多くの社員が関与することで、多様な視点を取り込むことを目指しています。今後も、ダイバーシティ&インクルージョンにおける意識向上のために、さまざまな取り組みや社内外への発信を続けてまいります。